○ 令和3年度介護報酬改定に伴う「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(平成十一年厚生省令第四十六号)改正において、虐待防止対策をとることが、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成 17 年法律第 124 号。以下「高齢者虐待防止法」という。)に規定されているところであり、その実効性を高め、入所者の尊厳の保持・人格の尊重が達成されるよう、虐待の防止に関する措置を講じることが求められました。
○ 本指針は、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について(平成12年3月17日老発214厚生省老人保健福祉局長通知)」における「第1 一般的事項 20 虐待の防止(基準第 31条の2)② 虐待の防止のための指針」として、定めるものです。
○ 当施設では、虐待は、高齢者の尊厳の保持や人格の尊重に深刻な影響を及ぼす可能性が極めて高いことと認識し、虐待の防止に関する措置を講じます。虐待を未然に防止するための対策及び発生した場合の対応等については、高齢者虐待の防止法の理念に基づき、虐待の未然防止・虐待等の早期発見・虐待等への迅速かつ適切な対応の実効性を高め、入所者の尊厳の保持・人格の尊重が達成されるよう、本指針に則り対応いたします。高齢者虐待は人権侵害であり、犯罪行為という認識のもと、高齢者虐待防止法の理念に基づき、高齢者の尊厳の保持・人格の尊重を重視し、権利利益の擁護に資することを目的に、高齢者虐待の防止とともに高齢者虐待の早期発見・早期対応に努め、高齢者虐待に該当する次の行為のいずれも行いません(別表参照)。
ⅰ 身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。 |
○ 当施設では、虐待発生防止に努める観点から、「虐待防止検討委員会」を組織し、虐待等の発生の防止・早期発見に加え、虐待等が発生した場合はその再発を確実に防止するための対策を検討します。また委員会にて検討された結果(施設における虐待に対する体制、虐待等の再発防止策等)に関しては、職員に周知徹底を図ります。
○ 虐待防止検討委員会の運営責任者は当施設の施設長とし、当該者を以て、「虐待の防止に関する措置を適切に実施するための担当者(以下担当者)」とみなします。また委員の構成は、以下のとおりとします。
・施設長
・介護職員
・看護職員
・介護支援専門員
・生活相談員
・その他委員会の設置趣旨に照らして必要と認められる者
○ 身体拘束適正化委員会や、関係する職種、取り扱う事項が相互に関係が深い場合には、他の会議と一体的に行う場合があり、加えて当施設に併設して展開する事業又は、法人内別事業と連携して虐待防止検討委員会を開催する場合があります。
○ 会議の実施にあたっては、テレビ会議システムを用いる場合があります。
○ 虐待防止検討委員会は3月に1回以上の定期的開催とし、必要な都度担当者が招集します。
○ 虐待防止検討委員会の議題は、担当者が定めます。具体的には、次のような内容について協議するものとします。
○ 虐待防止検討委員会その他施設内の組織に関すること
○ 虐待の防止のための指針の整備に関すること
○ 虐待の防止のための職員研修の内容に関すること
○ 虐待等について、職員が相談・報告できる体制整備に関すること
○ 職員が虐待等を把握した場合に、市町村への通報が迅速かつ適切に行われるための方法に関すること
○ 虐待等が発生した場合、その発生原因等の分析から得られる再発の確実な防止策に関すること
○ 再発の防止策を講じた際に、その効果についての評価に関すること
○ 職員に対する虐待の防止のための研修の内容は、虐待等の防止に関する基礎的内容等の適切な知識を普及・啓発するものであるとともに、当該特別養護老人ホームにおける指針に基づき、虐待の防止を徹底します。
○ 具体的には、次のプログラムにより実施します。
○ 高齢者虐待防止法の基本的考え方の理解
○ 高齢者権利養護事業/成年後見制度の理解
○ 虐待の種類と発生リスクの事前理解
○ 早期発見・事実確認と報告等の手順
○ 発生した場合の改善策
○ 実施は、年2回以上行います。また、新規採用時には必ず虐待の防止のための研修を実施します。
○ 研修の実施内容については、研修資料、実施概要、出席者等を記録し、電磁的記録等により保存します。
○ 虐待等が発生した場合には、速やかに市町村に報告するとともに、その要因の除去に努めます。客観的な事実確認の結果、虐待者が職員等であったことが判明した場合には、役職位の如何を問わず、厳正に対処します。
○ また、緊急性の高い事案の場合には、市町村及び警察等の協力を仰ぎ、被虐待者の権利と生命の保全を優先します。
職員等が他の職員等による利用者への虐待を発見した場合、担当者に報告します。虐待者が担当者本人であった場合は、他の上席者等に相談します。
○ 担当者は、苦情相談窓口を通じての相談や、上記職員等からの相談及び報告があった場合には、報告を行った者の権利が不当に侵害されないよう細心の注意を払った上で、虐待等を行った当人に事実確認を行います。虐待者が担当者の場合は、他の上席者が担当者を代行します。また、必要に応じ、関係者から事情を確認します。これら確認の経緯は、時系列で概要を整理します。
○ 事実確認の結果、虐待等の事象が事実であることが確認された場合には、当人に対応の改善を求め、就業規則等に則り必要な措置を講じます。
○ 上記の対応を行ったにもかかわらず、善処されない場合や緊急性が高いと判断される場合は、市町村の窓口等外部機関に相談します。
○ 事実確認を行った内容や、虐待等が発生した経緯等を踏まえ、虐待防止検討委員会において当該事案がなぜ発生したか検証し、原因の除去と再発防止策を作成し、職員に周知します。
○ 施設内で虐待等の発生後、その再発の危険が取り除かれ、再発が想定されない場合であっても、事実確認の概要及び再発防止策を併せて市町村に報告します。
○ 必要に応じ、関係機関や地域住民等に対して説明し、報告を行います。
○ 利用者又はご家族に対して、利用可能な成年後見制度について説明し、その求めに応じ、社会福祉協議会等の適切な窓口を案内する等の支援を行います。
○ 虐待等の苦情相談については、苦情相談窓口担当者は、寄せられた内容について苦情解決責任者に報告します。当該責任者が虐待等を行った者である場合には、他の上席者に相談します。
○ 苦情相談窓口に寄せられた内容は、相談者の個人情報の取り扱いに留意し、当該者に不利益が生じないよう、細心の注意を払います。
○ 対応の流れは、上述の「5 虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関する事項」に依るものとします。
○ 苦情相談窓口に寄せられた内容は、相談者にその顛末と対応を報告します。
○ 入所者等は、いつでも本指針を閲覧することができます。また、当施設HPにおいて、いつでも閲覧が可能な状態とします。
○3に定める研修会のほか、各地区社会福祉協議会や老人福祉施設協議会等により提供される虐待防止に関する研修等には積極的に参画し、利用者の権利擁護とサービスの質を低下させないよう常に研鑽を図ります。
附則 この指針は2021年7月1日から適用する。
区分 |
具体的な例 |
ⅰ 身体的虐待 |
① 暴力的行為※ ② 本人の利益にならない強制による行為、代替方法を検討せずに高齢者を乱暴に扱う行為 ③ 「緊急やむを得ない」場合以外の身体拘束・抑制 |
ⅱ 介護・世話の放棄・放任 |
① 必要とされる介護や世話を怠り、高齢者の生活環境・身体や精神状態を悪化させる行為 ② 高齢者の状態に応じた治療や介護を怠ったり、医学的診断を無視した行為 ③ 必要な用具の使用を限定し、高齢者の要望や行動を制限させる行為 ④ 高齢者の権利を無視した行為又はその行為の放置 ⑤ その他職務上の義務を著しく怠ること |
ⅲ 心理的虐待 |
① 威嚇的な発言、態度 ② 侮辱的な発言、態度 ③ 高齢者や家族の存在や行為を否定、無視するような発言、態度 ④ 高齢者の意欲や自立心を低下させる行為 ⑥ 心理的に高齢者を不当に孤立させる行為 ⑦ その他 |
ⅳ 性的虐待防止 |
○ 本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為又はその強要 |
ⅴ 経済的虐待 |
○ 本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること |
「暴行とは人に向かって不法なる物理的勢力を発揮することで、その物理的力が人の身体に接触することは必要でない。例えば、人に向かって石を投げ又は棒を打ち下せば、仮に石や棒が相手方の身体に触れないでも暴行罪は成立する」
(東京高裁判決昭和 25 年6月10日)。